受験生

その日曜日、　偶然　高校受験をひかえた二人の中３男子の予約が入っていた

午前中の子は　小学生のころから定期的に診てきたので　

その成長に　毎回　ビックリしてから治療が始まり、

「これ以上大きくなったら　次回から　もう大人料金だからね！」　と　おどして終わる

家族そろって来ていたので　「帰りはみんなでどこか行くの？」　と聞くと、

「僕は　まっすぐ帰って勉強する」　という

そうか・・もう小学生じゃない、　受験生なんだね　　とあらためて思う



午後の男子は　水素吸入の予約だった

勉強ばかりしているので　家族が心配して無理やり連れてきた感じである

（なんで　ここにいるんだ？　時間が惜しい！　帰って勉強しなきゃ！）　

と　顔に書いてある

吸入の準備をしている私に、

「これ　どんな効果があるのか説明してください」　と切りかかる

「脳や目の細胞の活性酸素がとれるから　スッキリしてはたらきが良くなるよ　」

「１時間　何もしないで寝てるヒマ　ないです」

「１日１時間も寝ないわけないんだし　その分　後で集中してできるようになるから

　はい、座って」

「ここに座って　ただ吸ってんですか？　英単みてていいすか？」

「目からも　サビ付き取ろうとしてんのに　

　そのそばから　目の活性酸素増やすようなこと　わざわざすることもないでしょ　　

　はい、　もうハラくくって　　座る！」


しぶしぶ座って　チューブを鼻に入れると、

「何も感じない、　　何も出てないですよ」

耳にチューブを近づけて　出ている音を聞かせ

「無味無臭だからね」　　と言うと、

「はい・・・」　　やっとあきらめて　目を閉じた


やれやれ・・・

隣室で　引率のおじいさまも　苦笑い　である　



この　逆らうエネルギー、　私にも覚えがある

受験のことで　いっぱいいっぱいで　

ぱんぱんに張りつめた革袋のように　ほかの何ものも　頭が受け付けない

何か用を　頼まれでもしようものなら、

また　”少し気分転換でもしたら”　などと　のんきに言われでもしたら、

”なんでっ？！　　わ、わたしは！　じゅ、受験生なのよ！！”

と、　この心と体にのしかかるプレッシャーを　

誰もわかってはくれないのだという　不満と怒りで　ただただ　いらだつ・・・


その感覚を　思い出していた

気持ちが　わかる　　


でもあのころから何十年か生きてみて　今　わかることもあるんだね

初めて経験することだから　受験がまるで人生の大きな壁に見えるだろう

でも　君らのポテンシャル、可能性は　そんなに小さいものじゃない！

そう　大人は伝えたいんだよ


そして　

今　うざったくてしかたない　家族や周囲の干渉が、

受験の成否を問わず　君のことを想う、　

四方八方からの愛だったと、

悪くない時代だったんだと　思う日が来ることも・・